卒業
長男から離れること14年後に生まれた、自分で産んだ孫と呼んで可愛がって来た末っ子。
彼女も小学校の卒業をひかえ、人生初の受験にトライしました。
高機能の発達障害で、知的障害のある兄姉とはまた違った意味で手のかかる子でした。
でも活かせるとしたら、その人よりちょっと高い知能。
感覚的に凡人に育てる事に腐心したとは言え、それがあるから人と自分とのズレに気付くことができるようになりました。
薬の副作用もあり多動だった頃から考えたら信じられないぐらい動かない子に成長しました。
携帯を持たせたのもいけなかったのですが、あっという間に親よりネットの世界を使いこなすようになり外の世界とつながり
小学生の友達とはそれなりの付き合いを
ネットの世界ではゲームを通じて大人と会話したりしている。
恐らく会話している人は相手が小学生だとは夢にも思っていまい。
この辺の事情は私にはよくわからないが、長女がそれなりに監視してくれている。
でも本人がお金がかからないように、まずいことにならないように、と自分でも気を付けて使っているので今の所放置している。
知能が高いからと言って勉強しなくても勉強ができるのかと言ったらそんなことはない。
学校の勉強は半分寝ていてもどうにかなるようですが、進学塾に行くと凹むことばかり。
「受験問題とか全然わかんないや~」
ですよね~^^;
お受験する子達はみんな寝る間も惜しんで勉強してきている。
そこへ行くと娘は暇さえあれば寝ているか携帯を見ているかどっちかでありました。
モチベーションが無いのだ。
強いて言えば政治への興味が深いので、記者になったらおもしろそうだなどと言う漠然とした夢はあるのですが
今目の前の受験に取り組むモチベーションにはとうとう繋がりませんでした。
親はある意味失敗したのかもしれない。
こういう子達はモチベーションが全て。
それさえあれば集中力が高いはずなのに、私はそこへ彼女をもっていってあげる事ができなかった。
娘は初めて訪れる街、初めて見る学校を前に緊張した様子もない。
手をつないで歩いて行くと、進学塾の先生たちが揃いのユニフォームを着て応援団よろしくプラカードを持って並んでいた。
そこには最後の一秒まで全力で、と書かれていた。
私は娘に言った。
お前の勉強への取り組み程度でここに受かったら誰も苦労はしない。
わからなくても落ちてもしょうがない。
でも一つだけ
一つたりとも空欄で出すな。
もしも答えがわからなかったら、読んだ先生がクスッと笑えるような回答を記入して来て。
「ふ~ん」
娘はわかったようなわからないような返事をした。
せっかく受験と言う体験をするのだから、何一つ無駄にしてほしくない。
さあ、ママが一緒にいてあげられるのはここまでだよ。
ここから先は一人で頑張っておいで。
娘は振り向きもせずに学校の玄関に一人向かって行った。
ママが居ないと不安症状で何もできず、泣いてばかりだったあの小さな子。
他の子達に紛れて見えなくなっていくその姿を見送り
この受験の結果がどうでも
あの子が一人向かっていったこの瞬間に意義があった、と
その時思えた。
お前がこの短い人生の中で学んだ事はどれだけあるだろう。
今お前が見てる景色はどんなだろう。
ゴメンね、ママは残念ながら凡人で
高い山の上に居るお前の孤独がわかってやれない。
いつの頃からか、あっという間に私を追い抜いて成長していったお前の
この先一人行く道の、せめてお守りで居てやりたい。
力強く歩いて行く後ろ姿を見送りながら
この子は私が居ないとダメなんです!
そう叫びたくなる自分の心から卒業するのは
自分の方なんだと
後ろ手にギュッと拳をにぎりしめ
精一杯やってこいよ、と一人呟く。