夢うつつ
昨夜は熱に浮かされていたせいか
妙に鮮やかな夢を見ていた。
切れ切れの風景なんだけど、色が鮮やかで
いつか何処かで見た風景だったような気がするけど
何処だったのか思い出せない。
発熱の苦しさで夢とうつつを行ったり来たりしている内に
ふ、と思い出した。
腫瘍摘出手術の時
3時間ぐらい、と言われたのが思ったよりかなり状態が悪く
結局6時間半もかかってしまい、失血も酷かった。
手術から翌朝まで手足は拘束されて、機械がいっぱい繋がっていて
苦しくて苦しくて30分おきに目が覚めたり気を失ったりしていた。
あの間に見た夢はずっと忘れない。
気がかりだった仕事を全部終えてなんだかスッキリした気分だった自分を、金の車が迎えに来てくれた。
それが誰だかはわからないのだけど、まるで周知の知り合いに出会ったみたいにホッとして
車に乗ってあちこちをドライブした。
その窓から見えるのはハッキリといつか見た景色の羅列であり
苦しくてうなされて目を覚ましても、また気を失うとその続きが見られた。
時系列は段々遡っていく感じだった。
運転している誰かとその当時の思い出を笑いながら話し
悪い事ばっかりじゃなかったな、と笑顔で当時を振り返っていた。
昔子供の頃に見た景色を通り抜けると
そろそろドライブも終わりなんだな、と感じた。
きっと運転しているのは死神様。
パリッとしたスーツを着ていて、いかにも紳士的で
なんだか色々な話や絵で見たのとは感じがだいぶ違った。
でも絶対にこちらを振り向かないので、顔はわからなかった。
でもそのドライブがとっても楽しかったのだけは覚えている。
そして
なんだか恋でもしたみたいに、自分はその人と一緒に行きたかったのを覚えている。
車が停まった。
「到着だよ。」
車が停まったのは今まさに自分が入院している病院の前だった。
え、なんでだろう。
ここで良いのかな、と思った瞬間
看護婦さんが拘束具をはずしにかかって目が覚めた。
もっとも
苦しくてだいぶ暴れたようであっちこっちに色々散乱していましたが(笑)
「気分はどうですか?」
と聞かれて
どうやら何処かでUターンして帰ってきたんだ、と気が付いた。
楽しいドライブから苦しい現実に。
昨夜熱に浮かされて見た夢はもう記憶から消えつつあるのに
死神様との素敵なドライブは今も鮮明に思い出せる。
あの時私が行ったり来たりしていたのは
何処の世界だったんだろう。